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福岡高等裁判所 昭和56年(行コ)5号 判決

控訴人(原告) あけぼのタクシー有限会社

被控訴人(被告) 福岡県地方労働委員会

被控訴人(参加人) あけぼのタクシー労働組合外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人福岡県地方労働委員会が、福岡労委昭和五一年(不)第二三号不当労働行為救済申立事件について、昭和五二年一二月五日付でした原判決添付別紙命令書記載の命令のうち、主文第一項及び第二項を取消す。訴訟費用は第一、二審とも同被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人の主張

1  被控訴人(参加人)中島、同横田(以下「参加人中島、同横田」という。)に対する本件解雇、参加人中島に対する出勤停止をいずれも不当労働行為と認定してなした被控訴人福岡県地方労働委員会(以下「被控訴人地労委」という。)の救済命令並びにこれを是認した原判決の認定判断は違法である。すなわち、参加人中島、同横田には、次のような懲戒事由があつたので懲戒処分に付したのであり、不当労働行為ではない。

(一)  点呼拒否について、

参加人中島同横田は、昭和四五年五月上旬から本件解雇に至るまで、運行管理者である松藤睦の行なう始業点呼に応ぜず、これを拒否してきた。始業点呼は、旅客輸送業務遂行上、法令によつて定められた不可欠重要な会社業務であり、これを拒否することは、参加人両名にタクシー運転手としての適格性がないことの証左である。まして、刑事上の処罰も済み、企業内の制裁も終つている松藤に対して、参加人中島、同横田らが個人的感情から「人殺し」呼ばわりして「点呼の資格がない」と抗議することは挑発的言動である。これを許すことは控訴人会社の企業秩序に対する破壊工作を承認し、助長するものである。

(二)  営業車への落書き書込闘争について、

被控訴人(参加人)あけぼのタクシー労働組合(以下「参加人組合」若しくは「組合」という。)は参加人中島、同横田の指揮により、昭和五〇年度春闘において、所謂、スライドダウン反対闘争を行なつたが、その際、控訴人会社の営業車に、賃下げ反対等の宣伝文句を油性塗料により殴り書きの落書きをする違法な争議戦術をとり、その落書きは、同年五月一七日より同年六月二三日までの三六日間の長期にわたり執拗に続けられ、控訴人会社が落書禁止の仮処分申請をするに至つて漸く終つたものである。しかも、その落書きをする対象の営業車は参加人労働組合の組合員の乗務する営業車にとどまらず、非組合員の乗務する車にも敢えて落書きをしたものである。

ところが、同年六月中旬、控訴人会社の従業員で非組合員の永島昭一が自己の乗務する車の落書きを落して控訴人会社の車庫に戻つたところ、待ち構えていた参加人中島が、右永島に対して「お前の車の字は誰が消したか」と怒鳴り永島を車より引きずり降して暴力を振るつた。

また、同年六月八日、同じく非組合員の宗像拓が、ブレーキ調整のため、会社車庫へ立ち戻つたところ、参加人両名は、他の組合員数名と共に、宗像運転の車を取り囲んで、その出発を阻止したうえ、塗料で落書きをしようとしたが、宗像が、その落書きを嫌い拒否したところ、当時の執行委員江里口章一が、「何を貴様、横着な、若憎のくせに」と言い、右宗像のネクタイをつかんで車外へ引きずり降す暴力を振るつた。

(三)  森和正に対して運収目標を減少するよう強要したことについて、

参加人組合の昭和五〇年度の春闘は、春季に終らず、夏季秋季を過ぎてもなお解決せず、同年一二月一八日に至つて漸く被控訴人地労委の立会いのうえで賃金協定が成立した。そして右賃上げの源資を確保するため運転手の運収目標を定め、労使双方の確認事項としてこれを協定内容とした。ところが、右協定にもかかわらず、参加人中島同横田は、その運収に関する会社の指示に従わないのみか、昭和五一年五月には、福岡市内の千早病院において、勤務中の運転手森和正に対し運収目標を無視し運収を減少するよう強要したものである。

参加人両名は、組合幹部として右協定を締結したものでその協定を遵守する責任があるが、その参加人両名が、右の如く運収目標を無視し運収減少を他の運転手に強要することは、労使関係における重大なる背信行為であり、会社経営の根幹を破壊するものである。

(四)  休車願の不提出について、

昭和五一年六月一日、参加人労働組合の非専従執行委員である江里口章一、半田繁実、深川登志明が、勤務中、休車願を提出しないで休車して執行委員会に参加したことが判明したため、控訴人会社は、右三名の運転手に対し注意を与えたところ、当人らは「組合用務で止まつているのだから休車願は組合から提出すべきで個人的に書かなくてよい、中島執行委員長から提出するなと止められている」旨、抗弁した。

控訴人会社においては、従業員が執行委員会参加を含めて休車願があれば、それが組合より一括提出されても、これを承認し拒否したことはない。

控訴人会社は右の江里口らの休車について、同月上旬の団体交渉において、参加人両名らに対し、事後でもよいから、また、組合の一括提出でもよいから休車願を提出するよう求めたが、参加人両名は、それに応じなかつた。

また控訴人会社は、右三名の者に対しては休車願が参加人中島の制止により提出できないのであれば、始末書を提出するよう求めたところ、深川登志明のみが、これに応じたが、江里口、半田は、これを拒否した。

控訴人会社は、かかる就業規則違反の行為を看過することは到底できるものではなく、秩序を維持するため、昭和五一年六月二一日、江里口、半田に対し出勤停止四日間の処分をなしたものである。

(五)  違法争議の指導について、

ところが参加人両名は、右の処分に対し異議を唱え、同月二一日、二二日の二日間にわたり、各二時間の抗議ストを行なつた。しかも更に、六月二三日、二四日を通じて、四八時間の抜き打ちストを行なつたものである。

右のストは、組合員全員の意思を集約した民主的、法律的手続を踏まずに、参加人両名の独善的引き回しによつて行なわれたものであり、しかも、その目的は控訴人会社の正当なる就業規則による懲戒処分の取り消しを目的としたもので、事前の予告もない抜き打ちストであつた。

かかる違法なる争議行為を指導した参加人両名の責任は重大である。

(六)  ビラ配布について、

前述の如き参加人両名の過激な組合活動が非組合員に累を及ぼしたことにより、大溝義夫らが、昭和五一年五月に運友会を結成し、参加人組合のスト中就労を試みたこともあつた。ところが参加人両名は運友会を敵視し同会幹部に対し暴力団呼ばわりをして、その記事を記載した宣伝ビラを博多駅その他において不特定多数の者に対して配布し、運友会に対する中傷、挑発を行なつた。

(七)  無断職場放棄について、

同年八月に入つて、運友会々員に対し参加人両名は、会社職場において常に暴力団呼ばわりをして口論し、そのため、参加人中島は、昭和五一年八月一四日より同月一八日まで計七時間一〇分、無断、職場放棄をして怠業し、参加人横田は、同年八月一五日より同月二〇日まで計五時間、無断、職場放棄をして怠業したものである。

参加人両名の運友会々員に対する挑発が激化し、非番日、公休日においても殊更、職場に来て争い、会社職場は集団的抗争の場となり、職場秩序の維持が困難となり、業務の正常な運営が停廃するに至つた。

かかる危機的状況において控訴人会社は運友会側の、大溝義夫、上山利勝、高尾安夫、本村政治らに対し、出勤停止三ケ月乃至一ケ月の懲戒処分を加えたうえ、参加人両名に対し懲戒解雇処分を行なつて、漸く職場秩序を回復することができたのである。

(八)  参加人両名の背任行為について

(1) 控訴人会社は、その営業車の運行に必要なる燃料(液化ガス)の購入については、昭和五一年当時、福岡市内の、次のLPGスタンド二店と特約を結び、営業車の給油は全てその二店を指定して利用させ、その代金は一括して控訴人会社が支払うこととし、これにより、燃料一リツトルにつき、五円または六円の値引を受け、経費の節減に努めていたものである。

控訴人会社の指定店

〈1〉 福岡市南区玉川二の一九

増田LPGスタンド

〈2〉 福岡市中央区長浜三丁目二の一

伊藤忠LPGスタンド

(〈1〉の増田スタンドの代行店)

ところが、参加人中島、同横田は、控訴人の燃料給油についての会社の指示に従わず、指定店で給油を受けず、勝手に指定外のスタンドで給油を受けて、その代金はタクシー料売上金より勝手に支払つていたものである。控訴人会社は参加人両名に対して、再三にわたり指定店で給油を受けるよう命じたが、右両名は、これを無視し会社の営業上の指示に従わず、会社の燃料費節減の方針に反して割高の燃料を勝手に購入して会社の収入減をもたらしていたものである。

参加人両名の右の行為は従業員の任務に反して、故意に会社に損害を加えた不法行為であり、控訴人会社との雇傭契約上の信頼関係を破壊したもので、参加人両名は、もはや控訴人会社の運転手としての適格性を全く欠如していたことが歴然としている。控訴人会社が参加人両名を懲戒解雇したことについてはこの観点からみても正当性が存する。

(2) 控訴人会社の営業車の運行稼働は、特定地域に限定されているものではない。控訴人会社の事務所、車庫は、福岡市東区千早四丁目八番五号に存するけれども、その営業車は、その近辺の名島、香椎の地区に限定される道理はない。また、かくの如き地区のみに限定して運行していては、会社の営業全般について効率的運用はできないことである。

ところが参加人両名は、名島、香椎地区が自分らの担当する運行地域であると勝手に称して、控訴人会社の再三の運行是正にも拘らず、これに従わず、右地区以外の地域に乗客を運んで降車させた後、空車のまま、香椎、千早地区に立ち戻り、同地区で客を乗車させるといつた変則的運行を行なつていたものである。

かかる参加人両名の行為も亦、控訴人会社の従業員として、その任務に反して運収の減少を企図しているもので、これによつて会社に故意に損害を加えるもので会社の従業員としての適格性がない。この点からみても、参加人両名に対する本件懲戒解雇は正当性を有する。

2  被控訴人地労委の会長より、本件不当労働行為救済申立事件の審査に参与委員として指定され、当事者に通知された使用者委員は、昭和五一年九月三日から昭和五二年六月一六日までの計一四回の審問のうち僅かに二回出席したのみで、他は全て欠席し、右申立事件の審査は使用者委員欠席のまま審問が行なわれており、また、審問を終結するに当つて、使用者委員の意見が聴かれていない疑いもある。かかる使用者委員の支援を受けないで偏頗不公正な手続を押しつけられた控訴人会社は、被控訴人地労委において、公正中立の審問を受ける権利を剥奪されたものというべく、被控訴人地労委の審問手続は違法であり、その審問手続においてなされた証人審問の調書は、裁判所において証拠として援用する価値がないものである。

3  参加人組合の組合員が、大量脱退、退社等によりいなくなつたのは、本件解雇がなされたことが原因ではなく、参加人中島、同横田が組合員の意思を無視して闘争のための闘争を強行し、組合員がその無謀な闘争方針について行くことができなくなつた結果によるものであるから、本件解雇により組合が壊滅的打撃を受けたことを事由として、控訴人会社に対し、参加人中島、同横田に対する全額のバツクペイを根拠づけることは不当である。

4  本件救済命令の主文第一項は不明確であつて、禁止された行為と許容、放任された行為の区別において、明確で合理的な基準を与えていないから、罪刑法定主義に反し憲法第三一条に違反するものである。

5  最高裁判所昭和三七年七月二〇日第二小法廷判決(民集一六巻八号一六五六頁)は、被解雇者の得た中間収入は「自己の債務を免れたことによつて得た利益」として、被解雇者が請求し得る賃金額から控除すべきものであるが(民法第五三六条第二項但書)、労働基準法第二六条の規定があるので、控除の範囲は、平均賃金の四〇パーセントの限度にとどめるべきものとする。そこで、被解雇者が、他で働いて中間収入を得た場合、解雇後復職までの間に有する賃金請求権は平均賃金の六〇パーセントということになる。従つて、参加人中島、同横田に対するバツクペイも右の限度によるべきである。

6  最高裁判所昭和五二年二月二三日大法廷判決は「不当労働行為によつて解雇された労働者がタクシー運転手であつて、解雇後比較的短期内に他のタクシー会社に運転手として雇用されて従前の賃金額に近い収入を得ており、また、タクシー運転手の同業他社への転職が当時比較的頻繁かつ容易であつたことなどにより、解雇による被解雇者の打撃が軽少で、当該事業所における労働者らの組合活動意思に対する制約的効果にも通常の場合とかなり異なるものがあつたなど判示の事情がある場合には、右他収入の控除を全く不問に付して賃金相当額全額の遡及支払を命じた労働委員会の救済命令は、特段の理由のない限り、裁量権行使の合理的な限度を超えるものとして、違法である。」と判示しているのであるが、本件では、参加人中島、同横田は臨時雇でもなく、解雇前より多額の賃金を取得していたばかりでなく、その勤務先の博多タクシー有限会社は、同人らが所属する上部労組が経営する会社であつたから、右最高裁判所の判決の判示する事実と参加人中島、同横田の本件における事実とを対比すると、全額のバツクペイを命じた被控訴人地労委の本件命令は、労働委員会に認められた裁量権の合理的な行使の限度を超えた違法、不当のものである。

二  被控訴人地労委の主張

労働組合法第二四条によれば、同法第七条の不当労働行為事件に関する処分には、労働委員会の公益委員のみが参与し、決定に先立つて行われる審問には使用者委員及び労働者委員が参与することを妨げないと規定している。従つて、本件不当労働行為の審査手続において、あらかじめ参与する旨被控訴人地労委の会長に申し出ていた使用者委員柴戸徳義が、合計一四回の審問期日のうち二回出席したのみで、他はすべて欠席した事実は控訴人主張のとおりであるが、元来、参与委員の制度は公益委員の審問行為を助けるためにあるのであつて、当事者の一方を支援するためのものではないから、右使用者委員が審問手続に欠席して参与しなかつたことが、審問手続の公正を害することにはならない。もつとも、本件不当労働行為の審査委員は、参与委員であつた右使用者委員の意見を口頭により聴取している。

その余の控訴人の主張はすべて争う。

三、参加人組合、同中島、同横田の主張

1  控訴人の主張は争う。控訴人の主張は独自の立場に固執し、被控訴人地労委及び原審裁判所の事実認定及び判断を非難するものでいずれも当を得ないものである。

2  控訴人会社は、運友会幹部の参加人中島、同横田に対する業務妨害活動を放置し、逆にこのトラブルを口実に参加人中島、同横田を本件解雇処分に付した。運友会の本村、高尾らはこれらのトラブルを始める直前に控訴人会社に入社し、同参加人らに対する本件解雇処分後旬日を経ずに会社から消えていつた。このことからも右トラブルが控訴人会社の意をうけてしくまれたものであることが容易に推認される。

3  参加人中島、同横田が控訴人主張の指定店以外で給油したことはあるが、これは控訴人会社運転手の多くが多かれ少なかれ経験していることである。それは業務の過程で給油の必要が生じた場合、わざわざ指定店まで車を走らせると時間や燃料が無駄になることがあるからである。従つて、同参加人らが背任行為をなしたとの主張は否認する。控訴人が控訴審に至つて、このような処分理由を付加することは、そもそも処分の理由のないことを示すものというべきである。

4  本件救済命令は、要するに参加人中島、同横田に対する原職復帰とバツクペイを命じたものに外ならず、この趣旨での救済命令は労働委員会においてしばしば発せられている。これをもつて、救済命令が不明確といえば、バツクペイを命ずる救済命令はすべて不明確ということに帰し、控訴人の主張が理由のないことは明らかである。

証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正し、次項以下を加えるほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一一枚目表四行目の「丙第四号証」の次に「、当審における被控訴人(参加人)横田重信本人尋問の結果」を挿入する。

2  同七行目に「運転手のほぼ全員」とあるのを「運転手約四〇名のほぼ全員」と、九行目に「昭和五〇年四月以降現在まで執行委員長の」とあるのを「昭和五〇年四月以降昭和五七年三月まで執行委員長、同月以降副執行委員長の」と、同一〇行目に「昭和四四年四月以降現在まで書記長の」とあるのを「昭和四四年四月以降昭和五七年三月まで書記長、同月以降執行委員長の」と改める。

3  同一二枚目裏一二行目の「丙第六号証」の次に「当審証人三浦新作の証言により真正に成立したことの認められる甲第一三、第一四号証(参加人らとの間では成立に争いがない。)及び当審証人三浦新作、同北崎定彦の各証言」を加える。

4  同一三枚目表一二行目に「書込行為を止めるよう再三申し入れたが、」とあるのを「書込行為を止めるよう再三申し入れ、同年六月六日には参加人組合の執行委員長である参加人中島に対し、右書込行為は違法であるので即時中止すること及び書込行為をなした者は厳重処分する旨を記載した警告書を手渡すとともに、会社の掲示板にも従業員各位に対する通達と題して、右書込行為が正当な労働運動をはずれた行為であるので今後違法行為があつた場合は厳重処分する旨の内容の掲示をなしたが、」と改める。

5  同一三枚目裏初行の「組合も右書込戦術を中止したこと」の次に「、その書込闘争の期間中、参加人組合の組合員と非組合員との間に紛争も発生し、非組合員永島昭一が組合員の書込んだ闘争スローガンを消したのに対し、参加人中島が永島昭一を車から引きおろし、また、非組合員宗像拓が組合員の書込を拒否したのに対し、組合員らが取り囲んで同人を車からひきおろそうとしたこと、また、右書込闘争は一カ月以上にわたつて行なわれたため、一部の車体には塗料の染みが残る結果を来したこと」と加える。

6  同一三枚目裏四行目から九行目までを次のとおり改める。「前記乙第一号証の八、成立に争いのない丙第二一号証の三、原本の存在及び成立に争いのない丙第二八号証によれば、控訴人会社の運転手で非組合員であつた大溝義夫は、昭和五一年三月頃、控訴人会社の取締役である三島隆二郎から参加人組合に対抗し得る非組合員の親睦団体の結成方をすすめられて賛同し、非組合員上山利勝らと連絡をとりあつてその組織作りの下準備を進めたうえ、同年五月七日、福岡県粕屋郡志免町所在の料亭とり八で非組合員運転手二十数名(当時控訴人会社の運転手五十数名中約二七、八名が組合員で残余が非組合員であつた。)により運友会という名称の親睦団体を結成し、大溝がその会長に、上山がその副会長に選出された。そして大溝は、その直後頃、自己の腹心となつて組合切り崩しの中心となつて働くための運転手として、鶴野、本村、高尾、伊島、溝口等、自己の縁者、知人を有利な条件で控訴人会社の運転手として採用して貰つて運友会員とした。また、右料亭での宴会費用につき控訴人会社からの援助がなされたほか、大溝は控訴人会社から工作資金の支給を受けて組合員阿部守男等を組合から退会させる活動をした。なお、運友会の結成は組合員の知るところとなり、組合役員は、非組合員らが休車届を控訴人会社に提出せずに運友会の結成会に参加した件につき、組合員には組合用務で休車する場合にはその届出をなさしめているのに、非組合員にはその届出をなさしめていないとして控訴人会社に抗議したため、控訴人会社は、乗務中運友会の結成に参加した非組合員に始末書を提出させ、或は、大溝に始末書の提出をとりまとめさせた。しかし、中には、控訴人会社からすすめられて結成会に参加したのに始末書を提出するのは筋が違うとして結局その提出をしなかつた者もいたが、控訴人会社はこれに対し、別段の懲戒処分は加えなかつた。そして、後記3の(二)及び(三)で認定のように、その後運友会は控訴人会社の意向を汲んで参加人組合と対立する動をすることが多かつた。以上の事実が認められ、右認定に反する甲第二一号証(原本の存在、成立とも争いがない。)の供述記載部分は措信できず、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。」

7  同一三枚目裏末行の「甲第四号証」の次に「、丙第一号証」を加える。

8  同一五枚目表八、九行目に「組合は、」とあるのを「組合は、控訴人会社に対し、前記の如く、執行委員会開催により休車する場合は、届出をしなくともよいとの慣行が出来ているとして休車届提出拒否の態度をとつていたが、一方では、昭和五一年六月一七日、控訴人会社に『会社からの指示事項についての返答とおたずねと題する書面』を送付し、休車届提出の問題で労使紛争が続くことは組合の本意ではないとしたうえで、会社側の真意を尋ね、その回答如何によつて組合が了解できれば控訴人会社の意向に副う方向で問題を解決する余地がある旨通知し現に、」と改める。

9  同一〇行目の末尾に「なお、会社は、組合役員が休車届を提出しないで執行委員会に出席していることに気付かなかつたとは言つても、執行委員会の開催は会社営業所の掲示板に掲示される事が多く、また会社は、各運転手の乗務の翌日には当該運転手のタコメーター、運転日報を検討していたから、執行委員会が開かれたことを察知しうる機会は十分にあつたが、見過ごされ、運友会の結成後、しかも運友会員が運友会結成の際休車届を提出していないことが組合側から問題とされた後に、執行委員会出席のための休車届が問題となつた。」と加える。

10  同一五枚目表一二行目の「前記乙第一号証の八、」の次に「丙第二八号証」を加える。

11  同一六枚目裏三、四行目に「同会員らはあくまで全車両の搬出を要求したため、」とあるのを「運友会の会長大溝は控訴人会社の代表取締役爪生哲也から全車両を搬出するよう指示を受けていて、あくまで全車両の搬出を要求したため、」と改め、同七行目の末尾に「そして同夜、営業車の搬出に参加した運友会会員一五、六名は、控訴人会社の費用負担で、博多駅裏の八仙閣で飲食のもてなしを受けた。」と加える。

12  同一六枚目裏末行の「丙第四号証、」の次に「丙第二八号証、」を加える。

13  同一七枚目表末行に「大溝ら運友会々員数名が」とあるのを「大溝ら運友会員数名は、組合がビラの撤回と謝罪文を書くことを拒否していることを言いがかりにして、組合を挑発し、組合との間の紛争を拡大させるべく、控訴人会社の暗黙の了解のもとに、その本来の業務を離れて、」と改める。

14  同一八枚目表六行目に「原告横田」とあるのを「参加人横田」と改める。

15  同裏二行目に「一か月内外で右運友会々員に対する出勤停止を解いた。」とあるのを「一か月内外で右運友会々員に対する出勤停止を解いただけでなく、出勤停止期間中の賃金相応分を支払つてその損失を保障した。」と改める。

16  同一九枚目裏初行の「しかし、」の前に「なるほど、組合の資金カンパのための情宣活動のビラであるとは言え、組合側の有利に事実を誇張し、運友会を暴力団まがいの連中ときめつけたことは、組合の情宣活動だからといつて許されるものではないが、」と加え、同五行目から六行目にかけて「それもある程度やむを得ないことと考えられる。」とあるのを「まして控訴人会社は運友会の結成及び運営につき支配介入して参加人組合と対立抗争せしめ、ひいては参加人組合員の組合活動を規制して組合の弱体化を計つていたのであるから、それもある程度やむを得なかつたと考えられる。」と改める。

17  同二〇枚目裏五、六行目に「従わなかつた点で」とあるのを「従わなかつた点及び右書込闘争期間中に参加人中島が非組合員永島昭一を車から引きおろした点で」と改める。

18  同二一枚目表三行目に「原告会社においても、」の次に「昭和五〇年一二月一八日、右書込闘争を派生させたタクシー料金改訂に伴う賃率の切下げの問題が被控訴人地労委のあつせんにより労使間に協定書が作成されて解決をみるに至つているのに、」と加える。

19  同二二枚目表八行目に「そして、」とあるのを、「もとより、松藤と組合との間には、前叙のように刑事事件が発生し、感情的対立があつたからと言つて、運行管理者である松藤の点呼を拒否することは控訴人会社の職場秩序を乱す非違行為であることは否めないけれども、」と改める。

20  同二四枚目裏四行目から二五枚目表一二行目までを次のとおり改める。

「以上判示の事情、殊に、参加人組合結成以来の控訴人会社における労使関係は必ずしも円滑とはいえず、本件懲戒以前にも控訴人会社は不当労働行為と疑われるような組合員に対する差別的取扱があつて、参加人組合に対し昭和四九年三月六日付で「一部について労務管理上誤解を招く点があつたので、今後はそのようなことがないように確約します。」と記載した確約書を交付していたのに、大溝らに働きかけて昭和五一年五月七日参加人組合に対抗するための非組合員組織である運友会を結成させ、これを支援して参加人組合との対立抗争に至らしめたのであるが、本件解雇の約二か月後には、控訴人会社の営業課長に登用された黒岩が中心となつて組合を解散ないし脱退しようとの働きかけがなされていることからすると、控訴人会社は運友会の結成、運営についてばかりでなく、参加人組合の解散、脱退についてもかかわりをもつていたと推認するのが相当であること、そして本件解雇処分は、組合が本件出勤停止処分に対する抗議のための闘争資金を得るために配布したビラの記載内容をめぐり、運友会との対立抗争の過程でなされたものであつたこと、さらに、参加人中島、横田には、営業車両に対する書込闘争、運友会を非謗中傷したビラの配布、運行管理者松藤の点呼拒否、更に参加人中島は右書込闘争の過程での非組合員永島昭一に対する暴行など、責めらるべき非違行為の存することも無視できないが、ビラの記載内容については、控訴人会社が運友会を支援して参加人組合と対立抗争せしめていた事実があるのだから、ビラの記載内容が運友会の非謗中傷にわたる点があつたとしても、これを強く咎めるのは妥当を欠くというべきであるし、書込闘争、松藤の点呼拒否、永島昭一に対する暴行については、その非違行為の時期、態様、その際控訴人会社が特段の措置を講じていなかつたことの諸事実からすると、参加人中島同横田に対し懲戒解雇をもつてその非違行為の責を問うことは、非違行為と処分の内容が権衡を失し社会通念上合理性があるとは思えないのであつて、参加人中島、同横田に対する本件解雇は、いずれも控訴人会社が同参加人らの組合活動を嫌悪しこれを理由としてなした労働組合法七条一号該当の不当労働行為と認めるのが相当である。そして本件出勤停止については、控訴人会社が執行委員会出席のため無届で休車した組合役員半田、同江里口、同深川に対し、休車届の提出を求めた措置自体は正当なものというべく、これを拒否した組合役員及び届出しなくてもよいとの慣行ができていると主張して控訴人会社の要求に応じ難い態度を示した組合にも非が認められるが、しかし前判示のように、控訴人会社は、組合自体も休車届の提出につき拒否的態度であること承知のうえで、敢て半田、江里口の始末書に代るものとして組合執行委員長の参加人中島に対し組合名義の始末書の提出を求め、組合が拒否的態度を示しながらも一面では控訴人会社の回答如何によつてはその提出を受け入れる余地があるとする態度を示していたのに、その機会を与える事もなく参加人中島を本件出勤停止処分に付し、この休車届提出問題を契機として一連の組合弱体化がはかられていること、また、休車届を出さずに運友会の結成に参加した非組合員に対しては始末書の提出が徹底されないままであつたのに、組合に対しては再検討の時間的猶予さえ与えないで、参加人中島を本件出勤停止処分に付したものであることからすると、本件出勤停止処分は参加人中島の組合活動を嫌悪し、これを規制することを決定的動機としてなされたものと認めるのが相当である。」

二  当審証人三浦新作、同北崎定彦の証言中、前記引用の原判決認定の事実(当審において付加、訂正した部分を含む)に反する部分は措信できず、控訴人が当審で提出した他の証拠によつても右認定を左右するに足りない。

三  (1) 控訴人は、当審において、参加人中島、同横田が違法争議を指導したとして、そのことをも同参加人らに対する本件解雇の事由として主張している。組合が、参加人中島に対する本件出勤停止及び半田、江里口に対する出勤停止処分に対し、昭和五一年六月二一日、二二日両日、各二時間の時限ストライキを行い、同月二三日、二四日を通じて四八時間のストライキを行つたことは前記引用の原判決の認定のとおりであるが、参加人組合がストライキを行う場合、事前に控訴人会社にその予告をなす旨の労働協約上の義務ないし争議予告の慣行があつたことについての証拠はないうえ、控訴人会社が懲戒処分を行つたので、その撤回を要求する趣旨の抗議行動(争議行為)は当然予想し得べき状況にあつたのであるから、右ストライキが抜き打ちストで違法である旨の控訴人の主張は失当である。

更に、控訴人は、要するに、右ストライキは民主的、法律的な方法でストライキ権が確立されずに行われた違法なものであるとも主張する。しかし、前記丙第二一号証の一、二、甲第七号証によると、右ストライキは過半数の組合員の意思によりその参加のもとになされた組合の統一的行動であることが認められるから、組合規約の定める正規な手続を経たものであるかどうかは証拠上必ずしも明らかではないものの、かかる組合規約違反の問題は、組合内部の問題であるに過ぎず、控訴人会社との間で右ストライキを違法とみるべきものではないので、控訴人の右主張も失当である。従つて、控訴人の右主張事実をもつて、本件解雇の事由とすることはできない。

(2) 控訴人は、更に、参加人中島、同横田が控訴人会社の指定店以外の店で給油を受けたことが背任行為であるとして、これも本件解雇の事由であると追加主張しているので判断する。

なるほど、当審証人三浦新作の証言により真正に成立したことの認められる甲第一五号証の一ないし四七、同第一六号証の一ないし八(いずれも、控訴人と参加人らとの間では成立に争いがない。)、当審証人三浦新作の証言及び当審における被控訴人(参加人)横田重信尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人会社は福岡市南区玉川二の一九増田LPGスタンド、同市中央区長浜三丁目二の一伊藤忠LPGスタンドと特約を結び、長距離の乗客を乗せ止むなく県外で給油する必要が生じたような場合以外は、原則的に右特約店で給油するよう乗務員に指示していたこと、参加人中島は長距離の乗客を乗せた場合でないのに、昭和五〇年一月一六日から昭和五一年八月一四日の本件解雇直前頃まで四七回にわたり、控訴人会社近くの福岡市東区箱崎七丁目七番一一号所在の井上商事株式会社で給油を受けたこと、参加人横田も同様に昭和五〇年二月一九日から昭和五一年四月一六日までの間に八回にわたり、右会社で給油を受けたことが認められる。しかし前掲証拠に、原本の存在及び成立に争いのない丙第二三号証の一、二によると、控訴人会社の所在する福岡市東区を中心に乗客を拾つている参加人中島、同横田は、福岡市中央区及び南区所在の右特約店まで給油に赴くことは時間的なロスもあつて、近くの前記会社で給油を受けて水揚げ代金からこれを支払い、その領収証と当日の水揚げ現金とを控訴人会社の会計に納金していたが、控訴人会社の職制から別段の注意をされたり処分を受けたりすることなく経過し、他にも右参加人らと同様に近くの給油店で給油する乗務員もいたこと(指定店以外で給油した乗務員が懲戒処分を受けた事例の証拠はない。)が認められる。右認定の事実によると、控訴人会社がLPGスタンド二店と特約を結び乗務員に対して、同店で燃料の給油を受けるよう指示していたとは言え、右指示に違反した場合に懲戒処分をもつて対処することまで考えていたかは疑問であり、かりに懲戒処分を以て対処する考えであつたとしても、参加人らが右指示に違反したからと言つて、譴責、減給、出勤停止など右指示違反にふさわしい懲戒処分を経ることもなく、懲戒解雇をなすことの理由とするには足りないものというべきである。

また、控訴人は、控訴人会社の再三の運行是正の指示にもかかわらず、参加人中島、同横田は、控訴人会社の周辺の名島、香椎地区に限定して営業車を運転し、その任務に反して運収の減少を企図していたとも主張するが、これを認めるに足る証拠は存しない。

四  控訴人は、被控訴人地労委の本件不当労働行為救済申立事件における審問手続は違法のものである旨主張するが、被控訴人地労委の主張のとおり、労働組合法第二四条は、同法第七条の不当労働行為事件に関する処分には労働委員会の公益委員のみが参与し、決定に先立つて行われる審問に使用者委員及び労働者委員が参与することを妨げないとしているに過ぎないから、控訴人主張のように使用者委員が審問期日の全部に出席していなかつたからといつて、右審問手続が違法というを得ないことは自明であり、まして使用者委員の出席のないことから、控訴人会社が偏頗不公正な手続を押しつけられ公正中立の審問を受ける権利を剥奪されたことにはならない。また、控訴人は、被控訴人地労委は審問を終結するに当つて使用者委員の意見も聴取していないと主張するが、それを認めるに足る証拠はないのみならず、たとえ右意見聴取がなされていないからといつて、被控訴人地労委における不当労働行為救済命令が違法無効を来すものでないことは、審問手続において使用者委員の出席を欠いた場合と同断であると言わねばならない。従つて、被控訴人地労委における本件不当労働行為救済申立事件の審問期日になされた証人審問調書は、本件訴訟における証拠とし使用することが出来ない旨の控訴人の主張も亦理由がない。

五  控訴人は、本件命令の主文第一項は、禁止された行為と許容、放任された行為の区別において明確で合理的な基準を与えていないから罪刑法定主義に反し憲法第三一条に違反する旨主張する。しかし、本件命令の主文第一項は、地方労働委員会が原職復帰、バツクペイを内容とする救済命令において一般的に使用した文書であり、前記引用の原判決説示のとおり本件命令における「懲戒解雇を取り消し」との文言が「解雇がなかつたと同様の状態を回復せよ」との趣旨で用いられていることが明らかであるうえ、本件命令は行為の禁止や、行為の許容、放任を命令の内容としているものではないから、禁止された行為と許容、放任された行為の区別において明確で合理的な基準を与えていない旨の控訴人の主張はそれ自体意味をなさないものというべきである。それ故、罪刑法定主義に反し憲法第三一条に違反する旨の控訴人の主張は採るを得ない。

六  更に控訴人は、被解雇者が解雇期間中他に就労して中間収入を得た場合、平均賃金の六〇パーセントを下らない限度で右中間収入を控除すべきであり、救済命令において命ぜらるべきバツクペイも右中間収入を控除した限度によるべきである旨主張し、最高裁判所昭和三七年七月二〇日第二小法廷判決を引用するが、前記引用の原判決理由説示(原判決二六枚目表二行目から二七枚目表五行目まで)のとおり、救済命令の内容は、不当労働行為によつて労働者が受けた個人的被害の救済の観点のみから中間収入を機械的にそのまま控除すべきではなく、不当労働行為が組合活動一般に対して与えた侵害を除去し正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するという観点をもあわせ考慮して中間収入の控除の要否を決定すべきものであり、控訴人引用の最高裁判所判決は、同裁判所昭和五二年二月二三日大法廷判決により右の説示の限度で変更されているのであるから、被解雇者が解雇期間中に中間収入を得れば平均賃金の六〇パーセントを下らない限度で必然的にその控除をなすべきとする控訴人の主張は失当というべきである。

七  控訴人はまた、参加人中島、同横田の本件解雇後、参加人組合の組合員が大量に脱退、退社していなくなつたのは、組合員が参加人中島、同横田の無謀な闘争方針について行くことができなかつたからであり、本件解雇が組合に壊滅的打撃を与えたことによるものではないから、組合が壊滅的打撃を受けたとして参加人中島、同横田に対して全額のバツクペイを命ずることの理由とならない旨主張する。しかし、前記引用の原判決認定(当該裁判所の付加訂正した認定を含む)のとおり、控訴人会社は参加人組合を切り崩す意図のもとに運友会の結成運営を助成し、参加人組合と運友会の対立抗争の過程で、参加人中島、同横田を本件解雇に付したもので、組合に打撃を与える目的があつたと推認されるところ、同参加人らに正当な組合活動の範囲を逸脱した非違行為の事実があつたとは言え、同参加人らの無謀な闘争方針が組合員の大量脱退等をもたらしめたと認めるに足る証拠はないから、本件解雇と参加人組合が壊滅的打撃を受けたこととは無関係である趣旨の控訴人の右主張は採用できない。

八  控訴人はまた、参加人中島、同横田は本件解雇後、同人らが所属する上部労組が経営する博多タクシー有限会社に勤務し、解雇前よりも多額の賃金を得ていたのであるから、参加人中島、同横田の個人的な打撃が軽少であつたことは勿論、参加人組合員の組合活動意思に対する制約的効果も通常の場合と異なり軽少であつたというべきであるのに、被控訴人地労委が、参加人中島、同横田に対しその解雇期間中全額のバツクペイを命じたことは、裁量権の合理的な行使の限度を超えた違法不当のものである旨主張する。なるほど、前記引用の原判決認定のとおり、参加人中島、同横田は本件解雇後、同参加人らの所属する上部労組の経営する博多タクシー有限会社に就職し、解雇前より多額の賃金を取得していたのは事実であるから、参加人中島、同横田が不当労働行為によつて受けた個人的打撃そのものは軽少であつたというを妨げないが、もともと、本件解雇は、半田副執行委員長に対する出勤停止二か月、黒岩、江里口両執行委員に対する出勤停止各三か月の懲戒処分と共に参加人組合に対し打撃を加える目的のもとになされたものであつて、現に参加人組合は本件解雇を契機として組合員の大量脱退、退社等が相次ぎ、参加人組合は壊滅的打撃を受けており、参加人組合員の組合活動意思に対する制約的効果が軽少であつたとは言い難い場合であるから、参加人中島、同横田が上部労組の経営する博多タクシー有限会社に容易に就職して解雇前より多額の賃金を取得していたことから直ちに被控訴人地労委が全額のバツクペイを命じたことがその裁量権の合理的な行使を超えた違法のものということはできない。

九  よつて、原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳壽 岡野重信 松島茂敏)

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